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海外で生活する前に知っておきたかったコト!Overseas Tips

【連載】失敗から学ぶ海外人事(第 26 話 ついにでたーっ!豚インフルエンザ!)

2019.09.24

26 話 ついにでたーっ!豚インフルエンザ!

 

2007 年頃、私は海外人事にあって、海外危機管理をメインに担当するようになっていました。その頃、いろいろな海外危機管理セミナーに意欲的に参加していましたが、必ずと言っていいほど「新型インフルエンザ対策」が、話題に上るようになっていました。

 

セミナーに参加している各社の「危機管理担当者」の皆さんは、新型インフルエンザ対応マニュアルの策定に、腐心されていたようです。

 

2008 年頃から、社内の総務に「危機管理委員会」の設立が決定され、私自身も、「新型インフルエンザ対策本部事務局」のメンバーとして吸収されました。
っていうか・・・総務には海外に詳しい人材はいなかったので、ほぼ 無理矢理に巻き込まれたという感じだったですね。
事務局といっても、やる気満々な総務部長さんと私の2人きりの、非常に寂しい状態でした
 。

兎に角、体育会系のブルドーザーのような総務部長さんと二人で、「新型インフルエンザ対応標準」なるものの策定に、着手したのです。

 

今回は、 危機管理標準の策定が、 なぜ難しいのかを考えてみました。

 

ほんとに、不況が長引いていて、なかなか経営が上手く行かない企業が多いようですね。
政府も、さまざまな経済政策を実施していますが、景気が良くなってる実感が沸きません。
・・・っていうところから、お話すると、「何言ってんの?危機管理の話だろ?」と、思われる方が多いと思います。

でも、経済・金融政策と危機管理標準策定とは、策定の困難さについて共通点があると思っています。

 

どういう共通点があるのでしょうか?

 

 

【あくまでもモデルです】

 

私は、大学時代に経済原論という、非常に小難しい学問を学びました。はっきり言って、ぜんぜん理解できませんでしたね()

 

今でも、古典派経済学・マルクス経済学・近代経済学などなど、難しくてまったく分かりません。
私なりの理解 で言いますと、経済原論というのは、一定の条件下でどういう原理が働くかということを論じているのだと思っています。
  「理屈の上では、こういう原理が働いているはずだ!」ということを論じているのであって、それをそのまま現実社会に適用しようとすると、前提条件が違っていたりするために、期待するアウトプットが出ないことがあるのでしょう。

 

危機管理標準策定においても、自社にとってのリスクを正しく評価し、一定の条件を想定して策定するのです。リスクの評価・想定を間違ったら、標準が効果的に機能しない場合があります。

そうは言っても、この世の中、何が起こるか分かりません。リスクを正確に想定することは、実は、プロの危機管理コンサルタントでも、非常に難しいのです。

 

「想定の困難さ」が、第一の共通点です。

 

 

【上手く機能するか、分からない・・】

 

 

経済・金融政策は、現状(結果)に対して、なんらかの施策を打つのですが、事前にそれが有効かどうか「実験」することが出来ません。

つまり、「実行」そのものが「実験」になってしまうのです。たまに、政策が間違っていても「上手くいっている」と、しらを切り続けなければならない時も、あるようですね・・・・

 

危機管理標準も、想定したリスクが顕在化しないと、有効性は実証出来ません。しかし、従業員の安全に関わることですから、「上手くいきませんでした。どうも、すみません。」では、済まされないのです。

 

「実験が困難」が、第二の共通点です。

 

 

【最も悩ましいのは、何か?】

 

 

経済・金融政策にしろ、危機管理標準にしろ、最後まで悩むのは何でしょうか?

 

それは、「人の心が、どう動くか?」によって、無限の選択肢があるということです。

 

経済・金融政策で、政府が必死で企業に賃金を上げるように働きかけました。しかし、実際にベースアップがあっても、景気の先行きが不透明で社会保障の行く末が案じられている現状では、将来の生活の不安から「貯蓄」に回ってしまっているかもしれません。

個人であろうと、企業であろうと「金を使うのか?貯蓄するのか?」は、人の心象の表現です。現在の日本の経済・金融政策は、まだまだ私達の心を動かすレベルまでには至っていないのでしょう。

 

海外危機管理標準においては、会社が従業員の安全をどのように考えているかの表現となります。対策を実行するのは、現場にいる従業員ですから、「自分達の安全が、しっかりと配慮されている」と納得できるルールで無ければ、効果的に機能しません。

 

例えば、海外有事において「拠点責任者は、従業員全員の退避を見届けてから、最後に退避」と決めたとします。その一文を読んだ拠点責任者は、「とんでもねーぞ!俺が逃げ遅れたらどうすんだよ?俺は、死んでもいいのか?」と、暴れだすかも知れません。

はたまた、義理人情に厚い駐在員達が、「社長をおいて、我々だけ逃げる分けにはいきません!」と言って、退避が遅れる場合も想定されます。

 

 そうかといって、危なくなったら全員同時に一斉退避と決めたとします。

駐在員全員が尻尾を巻いて一目散に逃げて行った為に、 現地従業員との信頼関係が崩壊する可能性があります。その場合、危機が去った後の事業再建に、現地従業員達が快く協力してくれるかどうか分かりません。

「日本人は、危なくなると地元の俺たちのことなんかほったからしにして、自分達だけ安全な場所にトンズラしやがるんだ。何が、社員は家族同然だ!嘘つき!」と思うでしょうね。
海外危機管理標準には、そういった、さまざまな立場の人の視点に立った「心の動き」も、配慮しておかなければならないのです。

 

「計測困難な人の心の動き」が、第三の共通点です。

 

 

【実験できた、新型インフルエンザ対策】

 

 

ところが、私は非常に稀なチャンスに恵まれました。

2008 年中に策定した、「新型インフルエンザ対応方針」を実験することが出来たのです。

 

2009 4 月、「新型の豚インフルエンザ」がメキシコで猛威を振るっているという報道が流れ、瞬く間に全世界にウイルスが拡散していきました。

 

 一瞬、世界各国の政府は動揺し、日本政府や多くの日系企業も過剰反応してしまいました。
また、日本人の多くも過剰反応し、風評被害も出ましたね。

 

 幸いにも、「弱毒性」だったため大参事になりませんでした。

企業の危機管理部門は、比較的スローペースで「新型インフルエンザ対応標準」の稼働状況を、じっくりと実践しながら観察することが出来たのです。

企業は、「頭の中で構築した危機管理標準」が、「どこまで有効に機能し」、「どの段階で仕組みがするかを」目の当たりにすることが出来たのです。

 

頭の中だけで構築した標準は、非常に早い段階で管理限界に達し、管理体制は脆くも崩壊しました。

この時、私は、自社の「実力値」を知ることが出来たのです。

 

多くの企業の危機管理担当部門が、この時の経験を、感染症以外の他のリスクに対する対処行動を策定する際に、大いに参考にすることが出来たのではないでしょうか。

 

インターネットや書籍をちょっと調べれば、海外危機管理の標準の知識や雛形は、いくらでも入手することが出来ます。大事なことは、それらは、日本企業が海外有事に四苦八苦しながら対応した、「経験からくる知恵の集積」であるということでしょう。

 

海外危機管理標準の策定が完了したら、時の経過とともに形骸化させることなく、先人の知恵として大事にしてもらいたいと、切に願うばかりです。

 

次回は、「駐在員の身近な危機管理」について、考えてみます。

 

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