【連載】失敗から学ぶ海外人事(第 21 話 さぁ帰任だ!住宅退去時のトラブル)
2019.08.05
第 21 話 さぁ帰任だ!住宅退去時のトラブル
企業の海外人事担当の A さんは、駐在員が住宅を退去する際に大家と 契約上の揉め事に遭遇したという話しを聞かせてくれました。ある日、ドイツの駐在員から、電話がかかってきました・・・・。
駐在員:「A さん、 ちょっと相談があるんだけど」
A さん:「うん?なんか、あったんすか?もうすぐ、帰任ですよね。」
駐在員:「揉めてまんねん・・・」
A さん:「だれと?夫婦喧嘩は犬もくわんよ。それに、お貸しするほどのお金もないよ。」
駐在員:「不動産屋と 揉めてるんや」
A さん:「どんな揉め事や?」
駐在員:「俺、揚げ物が大好きなんだよ」
A さん:「揚げ物と 不動産屋が、どんな関係があるんや?なんか、面倒くさそうやな・・」
駐在員:「まぁ、話は最後まで聴いてちょうだい・・」
駐在員の話を聴いているうちに、ほんとに面倒なことになっていることが分かってきたのです・・その駐在員は、揚げ物が大好きなんだそうです。 彼だけではなく、 ご家族全員、揚げ物が大好きなんだそうです。
だから、毎日のように、奥さんは夕食に揚げ物を作っていたそうです。鳥の唐揚げ、天ぷら、魚フライ、コロッケ・・・美味しそうです。その結果、何が起こったかというと、キッチンの壁に油汚れが染み付いてしまっていたのでした。
ドイツの人たちは、物凄い綺麗好きで、退去時にはちゃんと原状復帰しないと揉めると聞いていたので、奥さんは、毎日、一生懸命に油汚れを綺麗に掃除していたのだそうです。
帰任が決まって、退去の為の不動産屋のチェック を受けた結果、キッチンの壁が汚れてい
るという指摘を受けただけでなく、全ての壁を塗りなおせという要求が来たというのです。
【十分に綺麗なんだけどなぁ・・・】
駐在員は、 A さんに証拠としてキッチンや壁の写真を送って来ました。確かに、綺麗に掃除されています。日本の常識で考えると、確かに「ぴかぴか!」です。
でも、 不動産屋の最後通牒は・・・「壁を全部塗りなおせ」 でした。
駐在員:「こっちの連中は、恐るべき綺麗好きや!ついていけまへんわ!とほほ・・・」
このままだと、多額の修繕費を支払う羽目になるし、敷金も返してもらえなくなりそうだと、とうとうギブアップして、 海外人事の A さんに電話をしてきたという次第でした。
【法律が違う!常識がちがう!】
A さん:「結局、私にどうして欲しいの?」
駐在員:「壁を塗り替えなきゃならない。会社負担で、なんとかならんか?という相談や」皆さんが海外人事なら、どういう対応をするのでしょうか?
会社によって、ポリシーが違いますから、いろいろな考え方があるのでしょう。その時の A さんは、会社負担はしないと返事をしました。海外で暮らすということは、常識や判断基準が日本人とはまったく異なる人達の中でサバイバルするということです。
賃貸契約の在り様も、日本と違っているのは「当たり前」のことですし、汚したのは個人の生活上の問題です。しかも、「原状復帰」 は賃貸借契約に詳細に謳われていることですし、契約の主体は駐在員本人でしたから、特に会社負担にする理由は無いと判断したのです。
会社負担は無しということになると、 駐在員の闘争心に火がついてしまい、やる気満々で不動産屋と全面対決姿勢で遣り合いました。 彼は現地の弁護士に相談しましたが、 退去時には壁を借主が自分で塗り替えるのが、ドイツでは常識だと知ったのです。彼は、自分で壁塗りをすることが出来ないので、しぶしぶ専門業者にお金を払って綺麗にしたのでした。
【A さん、ありがとう ! 】
数ヶ月後、 A さんが喫煙所でタバコを吸っていると、例のドイツ駐在員だった彼がいることに気がつきました。
A さん | :「おぉ!お帰りなさい!元気そうで、なによりです。」 |
元駐在員:「おぉ!お久しぶりです!」 |
元駐在員:「俺、いい経験しましたよ。駐在中に、あんなに真剣に交渉したことなかったですよ。嫁さんと 、 あんなに協力しあったこと は、なかったですわ。外国の人と交渉する難しさ も 良く分かりました。 A さんには、お礼を言いたいぐらいですわ。今度、海外へ出る時には、もっと上手くやりますよ。」
A さん:「そうですか。そう言っていただけると、気持ちが少し軽くなりますわ。」
何もしないことが、人材開発に一役買うってこともあるんですね。ひょっとしたら、グローバル人材が不足している会社って、海外人事が面倒見が良すぎるのかも知れません。最近では駐在員の交替は、円滑さが求められるようになってきました。海外での賃貸契約トラブルのリスクを回避する為に、専門の海外不動産サービス業者を活用する企業が増えてきています。
昔のように、駐在員に様々な経験をさせて人材開発するというような、悠長な時代ではなくなったのかもしれませんね。
次回は、海外駐在の「車の処分」について、考えてみます 。