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海外で生活する前に知っておきたかったコト!Overseas Tips

赴任者健康

【連載】失敗から学ぶ海外人事(第 19 話 海外人事泣かせの医療費精算)

2019.07.22

19 話 海外人事泣かせの医療費精算

 

私は、会社勤めを辞めてから随分経ちます。会社員時代は、多くの会社員の皆さんと同様に、毎日、遅くまで残業していました。海外人事時代のある日、残業をしていると、遅い時間なのに海外人事担当の若い女子社員
が居残っていました。

 

「どしたの?まだ、帰れないの?」と、彼女に訊くと、「はぁ・・駐在員の医療費の健保請求が溜まってるんですぅ〜」
(山本さん、助けて〜、みたいに瞳が訴えています・・・)

 

「おー、どれどれ、ちょっと見せてみ・・」溜まっている書類に目を通すと・・・「あ〜、めんどくせー。これって、ものすげー面倒だなぁ」と、思わず言ってしまいました。

 

彼女は、泣きそうになりながら、「そうなんです、なかなか書類が揃わなくて・・・」生来、大雑把な私は、「ちょっとぐらい、足りないのがあっても、いいんじゃないの?」と、いってしまいましたが、「ダメ!それじゃ、ダメなんです!全部揃ってないと、ダメなんです! 健保組合から差し戻されるんです!

 

駐在員からは、督促されるし、足りない書類の提出をお願いしても、なかなか来ないし・・・」こういうの、何か良い方法はないのでしょうか?海外駐在員と帯同家族の医療費を、日本の健康保険に適用申請できるのは、今ではよく知
られています。

 

海外で病気になってしまって、現地の医療機関で治療を受けた場合、国にもよりますが、日本人の感覚では理解出来ないほど高額な請求が来ることがあります。また、海外拠点で駐在員と帯同家族に健康保険を付与している企業が多いですが、現地の医療制度・保険制度が日本と違うため、いろいろと不便を感じる場合が多いと聞いています。

 

【健保請求の書類が、なかなか揃わない理由】


私は海外駐在中に、日本の健保に請求する書類が、なかなか揃わない経験をしました。ある時、海外事業所での激務から体調を崩し、「目眩」を感じるようになりました。立ち眩みが酷くなってきたので、医者嫌いな私も、さすがに心配になって病院に行きました。

 


米国では、いきなり大きな病院に行くことはありま せん。ホームドクター制になっているので、近所の開業医のところに予約を入れて診察を受けます。「じゃ、明後日、ラボに行って頭の
CT スキャンを撮ってきてください。」と言われました。

 

日本だと信じられないことかもしれませんが、現法で加入している保険会社と提携がない医療機関で CT をとったら、一旦全額を支払うことになってしまいました。なんと、約2000ドル(20数万円)!そして、また2 -3日してから、ホームドクターのところへ結果を聞きに行くのです。

 

 

【なかなか終わらない診察・・・・】


ホームドクターは、写真をみながら・・・・
「うーーん、じゃ、今度は明日、この病院にいって、専門のドクターに診察してもらってください。」
翌日、指定されて大きな病院に行きました。そこで、専門ドクター診察を受けると、「おそらく、過労でしょう。
CT の写真では、問題はありません。一週間程度、ゆっくり休んで様子を見ましょう。」

 


その後、何回か病院を行ったり来たりして、終了するまでに一ヶ月近くかかりました。通院日には、仕事を休まなければならず、非常に効率が悪かったですね。

 


【健保請求の書類が揃うのに、2ヶ月かかった・・・】


結局、日本の総合病院のように、一箇所で完結しませんから、領収証や診療内容、検査内容、医師のサイン等を、耳を揃えて本社の人事に送るまでに、恐ろしく時間がかかってしまうのです。

 


しかも・・・・健保組合に申請する為には、海外人事の担当者が、慣れない英語の領収証
や記録などを読み解いて、整理する必要があるのです。そうこうしているうちに、 2 ヶ月以上経過して、やっと健保へ申請できるのです。

 


でも、よくチェックして申請したけど、健保サイドで「これ、何かな?」となって、不足している書類の提出を依頼してくることもあります。これを、また駐在員に依頼して、原本が届くのに、また暫くの間、保留せざるを得なくなるのです。
そうやって、担当者のデスクの未処理の箱に、溜まっていくのです。

 


【人事の片手間では、追いつかなくなってきました】


海外進出の初期段階では、人事の担当者が、副業的に駐在員の管理業務をやっていても、特に大きな問題は起こりませんでした。しかし、多くの企業が海外進出を推進してきた結果、「人事の副業」では、業務崩壊が起こるリスクが高まってきています。

 


近年、海外駐在員向けの優れた医療サポートを提供している 会社が重宝されています。
健保への海外医療費申請代行、
24 時間医療相談、病院の紹介、医療費のキャッシュレスサービス等、非常に多岐に渡る良質のサービスを展開しています。

 


また、公平性を可能な限り担保できるよう、企業に助言することが出来る、労務管理的な視点に立ったサービスを展開しているところもあります。多くの企業で、海外事業が経営の屋台骨を支えるようになってきています。その屋台骨を支える海外駐在員の生活支援にかかる費用を、「必要経費」と考える企業が増えてきました。

 


「苦労して、海外サバイバルスキルを向上させる」というのも、一つの考え方です。私自身も、海外で苦労した経験が自信に繋がったことは確かです。しかし、ビジネス環境変化が加速度的に早くなってきた昨今、駐在員のサバイバルスキル
向上を待っている程には、悠長に構えては居られなくなった現実がありますよね。

 


一方で、「生活支援を充実させることによって、効率よく業務に集中させる」という考え方も、海外事業では重要だと思うようになりました。

 


次回は、海外赴任直後に直面する「海外での住居さがし」について、考えてみましょう

 

 

【連載】失敗から学ぶ海外人事(第 16 話 無念の帰任、奥様の心の病)

2019.07.01

16 話 無念の帰任、奥様の心の病

少し前の話ですが、北米駐在中に知り合った、ある企業の北米駐在員 N さんにから、突然、 メールが飛んできました。


「やまもっちゃん、突然だけど帰任することになったよ。志半ばで帰任するのは本当に悔しいけど、やむを得ない。嫁さんが、体調崩してしまって、日本に帰らざるを得なくなったしまった。今まで色々と相談にのってくれて、ありがとう。」


それを読んで、私は、がっくり来てしまいました。Nさんは外大出身で、堪能な英語力を駆使する海外営業のキーマンだったそうで、 会社としても、Nさんの戦線離脱は「苦渋の決断」だったようです。なんとか、がんばって貰いたいと説得されたようですが、奥様の体調が改善せず、無念の帰任となったのです。

 


Nさんの帰任直前に、詳しい事情を電話でお聴きする機会がありました。Nさんの奥様は、米国の生活環境に馴染めず、日本人駐在員の奥様方とのお付き合いにも馴染めず、引き篭もり勝ちになってしまい、 心身のバランスを崩してしまったそうです。私は、 海外駐在から帰任後、海外人事配属されました。海外人事を、元駐在員の視点で改善するのがミッションでした。私は、経験的に海外駐在は「家族の総力戦」だと知っていました。
その為、帯同予定の奥様方の為に、「帯同配偶者の為の赴任前セミナー」を企画したのです。

 


私が企画した「帯同配偶者の為の赴任前セミナー」は、とても好評でした。まず、「あなたの旦那さんは、何をしに海外へ行くのか?」の概要を、私が説明するのです。殆どの駐在員は、奥様に会社の事や自分の仕事の内容等は、詳しく話すことはないようでした。世界地図に、それぞれの奥様方の行き先を表示し、その拠点が会社の事業にとってどんな役割を担っているか、そして、旦那さんがどういう仕事の為に赴任するのか、それを簡単に説明したのです。(毎回、参加者は
20 人程度でしたから、あまり時間はかかりませんでした。)

 


そのことによって、奥様方は、「なぜ、自分は海外に行く羽目になったのか」が、腹落ちして行くのです。この時、初めて、夫の仕事の重要性を知ることになるのです。
そして、海外生活カウンセラーによる、「奥様の為の海外危機管理セミナー」を聴講してもらうのです。日常の海外での危機管理を、分かり易くレクチャー頂き、不安の軽減と安全に関する心構えをして頂きました。

 


最後に、このセミナーの目玉商品は、参加者それぞれの赴任先国から、直近で帰任された「元駐在奥様との交流ランチ」でした。元駐在奥様達には、赴任国での生活(近隣の生活環境、病院の仕組み、学校の様子や習慣、各種手続きの方法、電気代・水道代などの支払い方、銀行での手続き、日本人妻コミュニティーとの関わり方、日本食の手に入れ方、現地で手に入る化粧品等々)の説明をして頂きました。実際のレシートや契約書類、銀行の小切手帳、写真、地図などを持ち寄って、参加者に丁寧にレクチャーする元駐在奥様もいらっしゃいました。

 


ある元駐在奥様に、「ここまでして頂いて、ありがとうございます。」とお礼を言ったら、「私も赴任前には、不安でうつ状態になりました。赴任直後は、辛い思いをした経験もあります。でも、楽しいことも沢山ありました。今から行く奥様方の気持ちが、痛い程分かります。お役に立てて、とても嬉しいです。」と、にこやかに言って頂きました。

 


赴任前の奥様達と帰任後の奥様、鮮明なコントラスト


このセミナーで、海外赴任の象徴的な「ある事」に、私は気が付きました。それは、赴任前の奥様方と元駐在奥様の、醸し出す雰囲気が、はっきりと違っていることでした。


赴任前の奥様方は、とても無口で大人しく、未体験ゾーンに放り込まれる不安が、心の中に充満している感じでした。セミナー中に、少し涙ぐんでいる人もいたと記憶しています。

 


一方で、元駐在奥様方は、とても明るく話好きで、自信に満ち溢れ、自分達が経験したことを、本当に楽しそうに語っているのです。それは、恐らく困難を乗り越えた経験が、その後の人生を豊かなものにしているのだと思います。

 

セミナーの最後には、「私、もっと長く居たかったの!でも、旦那の帰任が決まっちゃったから、残念!思わず、あんただけ帰ったら?って言っちゃった。また、どこかへ行ければいいな。」「そうよねぇ!山本さん!うちの旦那を、またどっかへ飛ばしちゃってよ!南極・北極以外なら、どこでもいいわ。」といって大笑いするシーンも見られました。

 


徐々に氷が溶けていくように・・・


元駐在奥様の尽きない話、かゆいところに手が届くような情報の提供で、交流ランチは毎回3時間以上かかりました。時間の経過とともに、赴任前奥様方の表情が段々と変わっていくのが、とても興味深かったですね。
なぜなら、自分達の目の前で、朗々と楽しそうに駐在時代のことを話している元駐在奥様方は、特別な才能を持った人達ではなく、自分達と同じ「普通の奥様」 だからです。そして、何よりも、元駐在奥様のほぼ全員が、「自分も、赴任前は不安でたまらなかった。」と言うからです。


興味深かったことは、元駐在奥様は自分達が経験した苦労を、誠実に、ありのまま脚色せずに、男性のような「誇張」をすることなく、具体的に話してくれることです。その事によって、「どの程度の苦労が待ち受けているのか」を、予め想定することが出来るのです。
このことが、とても大事です。精度の高い情報をインプットすることは、質の高いリスク回避行動に繋がるからです。

 


旦那さん達が、知っておくべきこと

セミナーの終わり頃には、赴任前奥様方と元駐在奥様の「ネットワーク」が出来あがって、連絡先の交換をする場面も見受けられました。女性は、基本的に面倒見が良く、親切なのです。

 


私自身も、このセミナーで多くのことを学ぶことが出来ました。赴任前奥様と元駐在奥様の中に、私の家内と子供達の姿を見たのです。私は、赴任前に、家内がどれ程不安でいたか、子供達と一緒に赴任地でどれ程がんばっていたか、そして海外赴任を通して、家内がどんな才能を開花させたか、まったく知らずにいたのです。


私の家内と同様に、多く の駐在奥様方が、赴任地での生活に問題を抱えていても、ご家庭
内で放置されている可能性が高いと思っています。女性より男性の方が、環境適応能力は高いと言われていますが、辛抱強く我慢した後に、心折れた時には、取り返しのつかないことになってしまうリスクが高まるのです。

 

なぜ対応が遅れるのでしょうか?

海外赴任は、旦那さんが赴任地で苦労するのと同様に、奥様も相当な苦労をします。駐在奥様が心労から体調を崩したり、心の病になってしまったりする背景には、何があるのでしょうか?それは、想定外のことが起こったショックかもしれないし、見知らぬ土地での孤立感かもしれないし、他の駐在員奥様方との不仲かもしれないし、子供の教育問題かもしれないし、それぞれに違ったトリガーがあるのでしょう。


駐在員の心の病は、勤怠状況・業務上の態度・パフォーマンスの低下等によって、周囲が認識することができます。また、会社の事業運営上の直接的な障害になりますから、遅かれ早かれ会社が対応せざるを得なくなります。


ところが、会社の管理外にいる駐在奥様は、心の病の症状が相当酷くなるまで、同僚も会社も、誰も気が付かないことがあります。なぜなら、誰しも家庭内の事情は、他人に知られたくないから、我慢して黙っているのです。


たとえ周囲で気が付いている人がいても、プライベートに立ち入ることに躊躇しますよね。結果として、ご家庭内での自助努力では、どうしようもなくなるまで放置される場合が多いのです。実際には、駐在員本人が自らギブアップ宣言するまで、なんの対策も講じられない場合があるのです。

 


奥様向けに、どんなメンタルケアをすればいいのでしょうか?

会社としては、駐在員の家庭の事情だから、介入し難いですよね。しかし、奥様が病気になったら、駐在員本人の活動に制限が生じることは事実です。場合によっては、駐在員の早期帰任という事態になりかねません。駐在奥様方が、心身ともに健康であることが海外事業の安定に繋がるのは、誰にも否定できないのです。


駐在奥様方は、会社が給料を払っている分けでも無いのに、駐在員を支え、家庭を支えることによって、間接的に海外事業を支援してくれています。駐在員に、「奥さんのメンタルヘルスに気をつけるように!」と、赴任前研修で海外人事が注意喚起するのは、ほとんど実効性はないでしょう。それは、会社にいる全男性従業員に、「奥さんを大事にして、ちゃんと愛しなさい」と人事が社内教育するのと同じくらい、余計なお世話に感じるでしょうね(笑)。


海外人事の皆様、是非、女性にヒヤリングしてみてください。「普段、家庭の主婦は、どうのように心のバランスをとっているの?」と、訊いてみましょう。そしたら、意外と簡単でコストの掛からない、良質な「駐在奥様向けメンタルヘルス制度」を設計するヒントが掴めるかも知れません。


あっ、「そんなこと言われても、難しいよなぁ」と思った人は、今日、仕事を終わって帰宅したら、ご自身の奥さんに訊いてみると良いかも知れませんね。
そしたら、 普段は家にいる時間が少ないあなたに「何か話したくて、待ち構えている」奥さんが、台所にいることに気が付くでしょう。

 

次回は、海外人事の「海外給与計算」について、考えてみましょう

 

 

【連載】失敗から学ぶ海外人事(第 15 話 見えない病、働けなくなった駐在員)

2019.06.24

第 15 話 見えない病、働けなくなった駐在員

 

 

ある企業で海外人事を担当している A さんから聞いた話しです。ある日、 A さんのデスクに上司がやってきて・・・。


上司:「あのな・・・北米のMさんだけどな、調子悪いみたいなんだ。」

 

A: 「えっ?なんでですかぁ?元気そうだったけどな。」

上司:「例のあれだよ。それを念頭に置いて気をつけておいてくれな。」

A:「あ~、例のあれですかぁ・・了解です。

上司:「まぁ、暫く様子みような。いずれ、回復すると思うけど。」
A さんは、 この会話の一ヶ月前にMさんから電話があって、一時間くらい愚痴を聴いたことを思い出しました。


同僚の駐在員の態度が悪いなど、Mさんらしくない愚痴を並べ立て、 最後には、「
A くん、話を聴いてくれてありがとうな」と言ったそうです。


更に、 北米の拠点長が、「最近、Mに仕事のメールしても返事こないし、電話しても出ないし、俺、ちょっと行って様子を見てくるわ。」 と電話してきたことも思い出しました。


Mさんは、体調不良を理由に出社しない日が増え、とうとう心配した北米担当の拠点長が様子を確認に行かなければならない状況になってしまいました。


結果、業務が全く出来ない程でもない為、しばらくは負荷をかけない様にして注視することになりました。


現地での対応が早かったので、Mさんは、なんとか任期を全うすることが出来たそうです。
しかし、本人にとっては辛い駐在経験だったと思います。


海外駐在員が、なぜ赴任地の仕事で強いストレスを感じるのか?


私の経験で恐縮ですが・・・・・。


「慣れない異国の地」で、日本側の様々な要求事項を、言語・文化・習慣・就労意識・ビジネスの思考形態の全く異なる現地スタッフに説明して、納得させて、日本と同様の成果・効果・結果を出すのは、並大抵なことではありません。


生来、話好きな私自身、海外赴任してから半年間ぐらいは、無口になりました。現地の事情が分からない日本側と、なかなか言うこと聞いてくれない現地との狭間で、板ばさみにな
ってしまうのです。この、「板ばさみストレス」が、私にとって、もっとも辛く感じることでした。


日本で習得した仕事の仕方が通用しないと分かった時、海外のビジネス 環境での自分自身の無力さに直面するのです。


更に、「誰も助けてくれない」職場環境が、ストレスに拍車を掛けていきます。同僚の駐在員と言っても、他部門から出てきた人達です。仕事に関する考え方も違えば、スキルも違います。


同僚の駐在員が、常に「味方」というわけではありません。本社の部門間の利害関係が、駐在員にも色濃く反映されることは、しばしばある事です。駐在員同士がいがみ合うことも、日常茶飯事です。


ビジネスはファンタジーではありません。少々冷たい言い方ですが、「実業」の世界は厳しく冷酷なものです。機能を果たせなくなった駐在員は、戦線離脱させるしかありません。


海外駐在員は海外事業運営の「キーマン」ですから、駐在員の機能不全は事業全体の機能不全に繋がる可能性が高いのです。


海外勤務に耐性がある人材って、どんな人?


そもそも、海外勤務に耐性がある人材って、どんな人なのでしょうか?それは、どうやったら事前に分かることが出来るのでしょうか?海外人事としては、とても興味のあるところですね。


私自身は、明確な答えは持っていません。ただ、海外赴任や海外人事の経験を通して、なんとなく分かったことがあります。


それは、「配慮の無い孤独な環境では、人は能力を発揮できない。」ということです。逃げ道の無い孤独な環境に、長期間耐えることが出来る人は、会社には殆どいないという前提に立つことが、海外人事にとって、会社にとって、とても大事なことかもしれませんね。


次回は、駐在員にとって切実な「奥さんのメンタルヘルス」について、考えてみます

 

【連載】失敗から学ぶ海外人事(第14話異国の地で病気になっちゃった。健康管理は大事です!)

2019.06.17

14 話 異国の地で病気になっちゃった。健康管理は大事です!

 

 

「山本、あのな・・・ A さんね、昨日ね、亡くなったんだ。」

 

 メキシコ工場時代、同僚の駐在員が私のデスクに来て、ショックで呆然としながら知らせてくれました。

 

 A さんは米国現法に単身赴任し、多忙にも関わらず、私たちのメキシコ工場立上げを支援してくれていました。良き兄貴分として、私たちは信頼を寄せていました。その頃、私たちメキシコ工場組も、 A さんと同様に激務に耐えていましたので、他人事ではありませんでした。A さんは、単身赴任で、帰任する前にメキシコ工場まで帰任挨拶がてら出張して来てくれました。

 

 

送別会で、 A さんは、「俺な、体調悪くて、なぜか背中が痛くてね、なかなか治らないんだ。医者に診せても、よく分からないと言われてね」と、しきりに背中に手をやっていたことを覚えています。
帰国後間もなく、
A さんは風呂場で突然倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまいました。 40半ばだったと記憶しています。 それ以外にも、何人かの駐在員が、駐在中又は帰任後に癌や白血病、脳梗塞、尿道結石などで戦線離脱し、中には不幸にも亡くなった人もおられます。仲間が病気したり、亡くなったりするのは、とても悲しいことです。海外人事は、何をすべきなのでしょうか?

 

私は、 海外赴任支援の仕事以外に、海外の危機管理も専門分野として取組んできました。まず、下記の数値を良くご覧になって頂きたいのです。

 

 

【外務省統計: 2017 年海外邦人援護統計】

 

 

事故・災害・事件等統計表 201 7 年 (全世界)より抜粋

 

2013 年:在外邦人の要因別死者数(総死者数: 477 人)
1)傷病 (302 人: 63.3%) *自殺 35 人含む
2)事故・災害 (73 人: 15.3%)

3)殺人・強盗・傷害その他の犯罪 23 人: 4.8%)
4)テロ・紛争 0 人: 0%)
5)その他 79 人: 16.5%)

 

これは、 2017 年に海外で亡くなった邦人を、要因別に纏めた数値です。よく観察すると、この統計はもう一つ、非常に重要なことを私たちに語ってくれています。それは、在外邦人の死因のうちで、圧倒的に多いのは「傷病」だということです。このことは、見落とし勝ちな「事実」です。

 

【駐在員の病気が意味すること】

 

 

 海外駐在員は、慣れない土地で、しかも「担当者は自分だけ」という職場環境で業務をしている人が殆どです。日本で勤務している時には、直ぐに病院に行くことが出来ますが、外国では医療の仕組みの違いや言葉の問題がある為、少しくらい体調が悪くても、仕事を優先してしまって医療機関に行こうとしない駐在員が多いのです。

 

 私も、そうでした。そもそも、病院なんて大嫌いでした。もし、医者に「休め」と言われてしまうと、仕事を休まざるを得なくなります。自分が何日も仕事を休むと、工場稼動が混乱し、挽回するのに何倍もの労力がかかります。「結局、誰も手伝ってはくれない。」と分かっていましたから、病院なんかには行きませんでした。


元気なふりをして仕事を続けた方が、よっぽど気が楽だったんです。そういう駐在員は、今でも世界中に沢山いらっしゃると思いますね。駐在員に選ばれる人は、「素直な戦士」が多いのです。
でも、一旦「ぽきっ!」と折れて病気になってしまうと、交替要員は直ぐには派遣出来ま
せん。しかも、長期の療養になると、海外事業所全体に「風穴」が開いてしまい、大きな損失に繋がりかねません。

 

 

 「仕事の標準化」という美辞麗句はあったとしても、まだまだ、多くの海外事業所では、「駐在員」の働きに頼った「属人的」事業運営が主流です。駐在員の病気は、そのまま「会社の病気」に直結するのです。

 

 

 

【健康管理は海外人事の腕の見せどころ!】

 

 

 

 海外駐在員の健康管理は、海外人事にとっては姿が見えないだけに、とても難しい業務ですよね。
国によって医療制度や医療水準が違っているため、海外渡航医療に関する知識や経験、「緊急事態対応」の即応能力も必要です。場合によっては、決然と行動する「度胸」が必要な時もありますし、病人やご家族に対する「思いやり」も必要です。

 

 近年、海外医療サービス業者と契約する企業が増えてきました。良質な海外医療サービスは、現在では海外進出企業にとって、なくてはならない存在になっています。

 

 対象国の医療制度・医療水準、実際の病院での対応、保険制度、医療保険への加入、対象国の感染症、対象国の衛生水準、対象国の気候、いろいろ分かっていなければならないことが多いのです。

 

 

 健康管理を適切に実施することの出来る海外人事は、経営者にとって、大切な宝物となるでしょう。

 

 もし今、あなたの会社の海外事業所の「キーマン」が倒れたら、適切な対応が出来る体制にありますか?
その前に「適切な対応」とは、どういう対応なのか、分かっておかなければなりません。
まさか、「大変だ!大変だ!」と騒いで、何も対処できず、見殺しにしてしまうということにならなければ良いんですが・・・・。

 

 ほんとに、大丈夫ですか?

 

 

次回は、海外駐在員にストレスで起こりがちな、「メンタルヘルス」について考えてみましょう。

 

 

海外生活での健康予防と救急時の対処方法

2019.03.07

海外での健康予防と救急時の対処方法

海外では水が日本人に合わないと考えてください。その土地の人たちが平気で飲んでいる水でも、新参者には下痢などを引き起こすので、要注意が必要です。健康で大きなトラブルを起こさない駐在員こそ、名駐在員です。家族みんなで規則正しい生活を送り、「食事」「趣味・運動」「睡眠」の三要素がとても大切です。ここでは健康に心がけながら、万一に備えて家庭で行える予防や緊急時の対象を整理してきたいと思います。

 

 

 

家族の健康と一日の行動予定の確認する

海外生活では、毎朝、お互いの健康チェックとその日の予定を確かめ合うのも習慣にすることをお勧めします。子供の体調をきちんと把握し、予定とのバランスを見て、適切な助言をしてあげてください。これらは日本にいるときは行っていませんでしたが、海外にいる場合、毎朝行うべきです。なぜなら、家族が今、どこで何をしているかを知っておくことは、危機管理の面からも大切だからです。

 

出国前の健康診断などで「要注意」といわれたところは家族でお互いに気をつけてください。例えば、貧血、高血圧、糖尿、アレルギーなど、です。症状がそれがどういうもので、悪くなるとどんな症状や影響があるのか、改善や治療にはどうしたらよいのか、してはいけないことは何か、などについて家族全員が理解し、協力するようにしてください。

 

 

 

医療機関のリストを作成する

赴任地に着いたら、まず初めに行っていただきたいことは、前任者や日本人会などから、日本人がよく利用する診療所、救急病院などの情報収集し、実際にその場所まで行ってみてください。住所と電話番号を確認し、周囲の環境や利用者の様子も観察しておくとよいでしょう。また、救急車の呼び方も知っておくとよいです。腕によいドクターを知るには既に赴任している同僚や日本人に聞くことをお勧めします。

もし、良い小児科・内科の良い開業医を見つけることができた場合は、ホームドクターになってもらうことをお勧めします。日本から持ってきた健康診断書や母子手帳などを見せて、予防接種歴、よく出る症状やアレルギー、既往病歴、家族の病歴なども、ホームドクターに理解してもらうように努めてください。

 

日本語対応の医療機関のパイプをつくる

日本語が使える契約している保険会社の現地事務所、または提携会社に対して、電話やFAX 、Eメールでいつでも連絡が取れるかを確認してください。契約した日本の保険代理店が重要なパイプとなります。また、インターネットで日本語を使って医療相談ができるところを検索し、実際に連絡をとってみてください。さらに、日本語が通じる医療機関なども実際に通じるかどうかを確かめておく必要があります。

確認できた連絡先は、必ず大きく紙に書いて、冷蔵庫などに張り付けるなどし、直ぐに使える状態にしてください。また、夫の勤務先、日本人会の住所・電話番号、子供の学校の電話番号、担任名、友達の電話番号なども、一緒に貼っておくと大変便利です。また、お子様には「緊急連絡先」「医療機関の指定」などを記載したメモ帳やカードなどを常時携行させてください。赴任地で事故などのトラブルに遭遇した場合は、危険が防ぐことができます。

 

医療関係のものは一か所にまとめること

家族の健康診断書はもちろんのこと、母子手帳、保険証書などの必要書類は関らず一箇所にまとめておいてください。また、救急箱、体温計や爪切り、耳かきなどは、なども家族で共通認識の置き場所をどこかに決めるとよいでしょう。何かあった時にさっと出せるようにしておくことが大切です。

さらに、熱帯地域の場合、日本から持っていった常備薬などの薬は、冷蔵庫に保管することで、変質を防げます。とくに熱い国では、よく汗をかくため、カルシウム不足になりやすいので、カルシウム剤を常備しておくとよいでしょう。

 

 

 

水の抵抗力をつける

水に馴染んでください。新しい雑菌への抵抗力がつくまでは下痢に襲われることもありますが、数カ月もすると落ちついてくるはずです。家庭においては、水道には浄水器をつけ、必ず煮沸したものを飲んでください。これは駐在歴には関係なく重要です。

ただし、入浴・うがい・歯磨きなどにまで神経質にならなくても大丈夫です。抗生物質に対しては「危険物」の認識を持ってください。服用、保管にも気をつけてください。

 

(編集:海外引越のマイグロール・ジャパン)

広報担当:高山

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