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海外で生活する前に知っておきたかったコト!Overseas Tips

マネジメント

【連載】失敗から学ぶ海外人事(第 9 話 初代駐在員の学校探しは珍道中)

2019.05.06

第 9 話 初代駐在員の学校探しは珍道中

 

帯同子女の学校探し。親としては、ほんとに頭の痛い問題です。

 

日本人学校がある地域では、比較的安心して赴任することができます。でも、現地校しかなかったり、インターナショナルスクールしか方法がなかったり・・・

 

「お父さん、独りで行ってくれるかな?」
そういう選択も、場合によっては「あり」かもしれません。でも、たまにしかお父さんに会
えないと、子供は寂しがるかも知れれませんね。

 

いずれにせよ、家族全員の人生設計が大きな岐路に立たされるのが、海外赴任なのです。

 

 

私は、会社のメキシコ工場立上げの初代駐在員として、子供達の学校探しをしました。

その珍道中を、今回のお話し致します。
赴任地には、日本人は非常に少ない地域だったので、日本人学校などありませんでした。

 

「学校かぁ~。それって、 どこにあるんかな?」
赴任直後、学校探しが、私の取組むべき重要課題でした。(赴任地はメキシコー米国の国境沿い。工場はメキシコ側、居住地はアメリカ側でした。)

 

そもそも、何処にどんな学校があって、どういう手続きを踏めばいいのか、全くしらなかったんです。もともと能天気な私は、「なんとかなる」と思っていたので、子供の教育の準備など何もしていませんでした。今から思えば、親として失格だったかもしれませんね。

 

他の日系企業も幾つか進出していましたが、数が少なく交流もありませんでした。しょうがないので、知り合った現地の人達にいろいろ訊いて、学校に直接行って情報を集めるしかありませんでした。

 

【現地校にもいろいろあるよね・・・】

 

いろいろ調べましたが、なかなかしっくりくる学校がありませんでした。
公立の小学校は、英語の出来ない生徒はとりあえず
ESL(英語教室)に通って、学校での授業に支障が無い程度まで、英語習得の必要がありました。そんなことやってると、勉強が一年ぐらい遅れてしまいそうです。

私立の学校は、宗教色が強かったり、独自の特殊な教育カリキュラムを採用していたりと、日本へ帰国後の高等教育を受ける場面で、支障が出そうなところが多かったと記憶しています。

 

もっと困ったことは、英語の出来ない日本人の児童を受け入れることに、難色を示す学校が多かったことです。その地域では、日本人は珍しい存在で、実際に日本人と交流した経験が無い人が多かったようです。

 

 

【地元の人に訊くのが一番!】

 

調べれば調べるほど、困難が立ちはだかって、子供達の学校が決まりませんでした。

そんなある日、現地の取引業者の社長さんと、夕食をご一緒する機会がありました。彼は、典型的な陽気なメキシコ系アメリカ人でしたので、能天気な関西人の私とは気が合いました。


「この土地での生活で何か困ったことがあったら、いつでも言ってくれ。相談にのるよ。」
「子供の学校が、なかなか見つからないんだよ。どっか、英語の出来ない日本人の子供を面倒みてくれる親切な学校ないかな?」「あ、そういうことなら、丁度いい学校があるよ。この学校に問い合わせるといいよ。」

彼は、学校名と大よその住所と地図を、テーブルにあったナフキンにさらさらっと書いて渡してくれました。あまり期待はしていませんでしたが、とりあえず翌日に休暇をとって、その学校に行って見ました。

 

 

【校長先生!お願いします!】

 

 

教えてもらった学校に行ってみました。教会系の学校でしたが、とても明るい雰囲気でした。受付の女性に、子供が四ヶ月程したら日本から来るのだが、学校を探していると伝えると、「校長先生は、出張中です。明日の朝、もう一度来てください。入学については、校長先生と面接して頂くことになっています。」と言われました。

 

 

「はぁ?いきなり校長先生?面接?なんか、めんどくさい事になったな。」と思いつつ、例 の社長さんにその事を伝えると、「いつもみたいな工場のユニフォームじゃなくて、ネクタイ締めていったほうがいいよ。」とアドバイスを貰いました 。

つまり、校長先生は親の様子も判断材料にするらしいのです。私には、そういう常識はありませんでしたので、ほんとに助かりました。

 

翌日、私は指定された時間に、ネクタイを締めて学校に行ったのです。

 

 

校長先生は、非常に快活で終始笑顔で対応してくました。彼の説明によると、神様を大切にするが他宗教の児童を差別無く柔軟に受け入れていること、教育カリキュラムはアメリカの一般的な学校とほぼ同等とのことでした。

直感的な判断でしたが、実際に学校を見て、明るい雰囲気で好感が持てたことと 、校長先生の誠実そうな人柄で、「この学校に通わせよう」と思ったのです。

 

 

私は校長先生に、社命で赴任することになったこと、会社の事業概要、教育費は十分に支払可能であること、子供は長男が 6 歳で長女が 4 歳になること、英語は出来ないこと、いずれは帰国して日本で暮らすこと、受け入れてくれる学校が見つからずに困っていること、などなど、切々と説明していると・・・・

 

 

 

「分かりました。今、本校には日本人の児童が1人います。その子は、ニューヨークから転校してきた児童で、英語は出来ます。私たちは、英語の出来ない日本人を受け入れた実績はありませんが、受け入れても良いというクラスの先生がいるかどうか、訊いてみます。お困りでしょうから、なんとか受け入れることが出来るよう、努力してみます。来週もう一度来校して頂いて、結果をご連絡いたします。」

 

翌週、子供達を受け入れることが決まったと、校長先生から返事を貰ったのです。息子は、9 月の新学年開始のタイミングに合わせて、一旦プレスクール(幼稚園)に入り、そのまま小学校へ進学することになりました。娘は、保育園に入れてもらうことになり、一安心出来ました。

子供達が実際に通学・通園するようになる と、とても優しい先生方と友達に恵まれて、とても良い学校だと分かりました。妻も、先生や父兄との交流で、有意義な経験をしたようです。子供達は大人になった今でも、当時のクラスメート達と交流しているようです。

 

私は現地の仕事では、やることなすこと大失敗しましたが、唯一失敗をしなかったのが子供達の学校探しでした。仕事中心で、子育ては妻に任せきりでしたが、少しだけ父親らしいことが出来たと思います。

親は、子育てによって大人になって行くというのは、ほんとうですね。

 

 

【子女教育は、会社にとっても重要課題】

 

 

海外人事時代、私は海外にいる仲間たちから子女教育に関する相談を、数多く受けることになりました。帯同子女の取扱に対する悩みについては、真摯に耳を傾け、出来る限りの配慮をするように上司に上程していました。
幸いにも、子女取扱に関する決裁書が否決されたことは、一度もありませんでした。私が勤めていた会社は、とても良心的な会社だったと思います。

 

 

子供を連れて行く駐在員は、会社の子女対応に十分な配慮があれば、信頼感と安心感を持って赴任できることを、私は経験的に知っていました。親は、自分のことなら我慢しますが、子供のことになると一切妥協できないのです。

駐在員は、帯同子女の教育・養育に問題を抱えると、業務に 100%集中することが出来ません。帯同子女の就学サポートは、お金はかかりますが、海外人事が「会社の良心」を表現できる数少ないチャンスです。感謝されると、気分いいですよね。

 

次回は「海外引越」に関するトラブルについて、考えてみましょう。

 

 

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<筆者紹介>

海外生活株式会社

海外危機管理コンサルタント 山本 優

10年の海外勤務、帰国後の海外人事の経験をもとに、海外勤務の諸問題をクライアントの皆様と一緒になって考える、海外人事支援コンサルタント。

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【連載】失敗しない海外人事(第8話 説明が難しいな、購買力補償方式?)

2019.04.29

 

 

 

 

第 8 話 説明が難しいな、購買力補償方式?

 

海外人事担当の可愛らしい女子社員が、赴任前説明会の最後に笑顔で言いました。担当者:「以上で、山本さんが海外で受け取る給与のご説明を終わります。

 

何か、 ご不明な点はありますでしょうか?」

 

山本:「うーーーんとね・・・すみませんが、もう一回最初からお願いします。」

 

担当者:「そ・・そうですか・・つまりですね、手取り保証の仕組みなんですが、まず、見做しの所得税や社会保険料などを引いてですね、それが日本での山本さんが生活している生計費と看做してですね・・・」

 

山本:「生計費?見做し?あ~!わからん!もう一回、最初からお願いします!」

 

海外駐在員の給与体系、初めて聞いた時は、よく理解できませんでした。多くの駐在員が同じような経験をしていると思います。

 

海外赴任前に、人事の担当者を質問攻めにした私は、メキシコからカナダと渡り歩き、本社に帰任したら、なぜか海外人事を担当することになったのです。私は、海外人事制度を説明する立場になりました。

 

いろいろ海外人事の制度を勉強するうちに、「こりゃ、人事の給与制度に詳しくない人達に説明するのは難しいなぁ。」と思った次第です。

 

 

今回は、いつもより少し長い話になりました。

 

 

海外駐在員の給与設計は、海外人事屋さんの頭痛の種ですよね。海外人事制度が、そのまま海外給与に集約されているので、ほんとうに気を使います。

 

給与制度が分かりにくいと、赴任前から会社に対する不信感が芽生えかねません。不信感は、駐在員の動機付け低下に繋がるので、会社として軽視すべきではありません。

 

【複雑怪奇な給与制度】

 

私は、 約 10 年の海外赴任の後、海外人事に配属となり、海外給与の煩わしさを経験することになったのです。海外人事に散々文句言っていたので、罰が当たった気分でした。

 

海外給与体系は、まるで立体パズルのように、様々な「面」が重なりあっていて、三次元的です。一部変更すると、いろんなところに影響が出てしまう、有機的な仕組みです。

 

公平性の担保(物価、為替レート、生活環境)、動機付け、税務(国内、赴任先国)、福利厚生、労組との交渉事項、安全配慮義務、将来の海外人材の確保、などなど、海外人事屋さんが直面する課題の全てが、そこに集約されています。

 

かっこよく言えば、「人事の考え方の集積」ですね。これは、人事特有の世界ですが、事業部門の従業員には理解が難しいのです。人事の経験が無い人にとっては、「考え方次第でどうにでもなる、架空の金額」のように思えるのです。

 

【海外給与には、いろいろやり方がある】

 

海外給与には、購買力補償方式、併用方式、別建方式の、大きく三種類あると言われています。私が勤めていた会社は、複数の国々に進出していましたから、最もポピュラーな購買力補償方式を採用していました。

 

コンサルティング会社が発行する、統計データ(指数)を購入して設計します。設計概念が複雑ですが、国の違いによる不公平感が出にくいとされています。

 

大手向きの設計方法かもしれませんね。併用方式は、国内給与の手取り額をそのまま補償する形式ですが、主に、中小企業で採用されているようです。大手も海外進出の規模によっては、購買力補償方式から併用方式への変更を検討する傾向があるそうです。

 

 

別建方式は、まったく国内給与とは別の概念で設計する方式です。少数ですが、便利に活用されています。いずれにせよ、分かりにくいのは、「手取保証」という考え方です。これが、なかなか素人には分かりにくいのです。

 

 

海外人事は赴任者に、この「手取保証」の仕組みを、きっちりと!ちゃんと分かってもらえるまで何度でも!説明すべきだと思います。

 

 

【どんな給与方式がベストなのか?】

 

 

それは、一概には言えないというのが実感です。経験豊かな人事屋さんなら、解説本を何冊か読めば、いとも簡単に精緻な海外給与体系を組み上げてしまうでしょう。

 

しかし、「理屈の矛盾がない海外給与体系」が、必ずしも、海外事業に有効に機能するとは限らないのです。

 

 

どの方式で設計したとしても、それぞれ一長一短があります。自社の実態に合わせて、海外人事が知恵を絞って、創り上げて行くしかありません。最近では、コンサルティング会社を活用して、海外給与設計をしている企業も増えてきたようですね。

 

 

【なんで海外人事に文句言ってくるんだろう?】

 

 

困ったことに、どんなに上手く海外給与体系を組み上げても、どんなに上手く説明できたと しても、赴任してから多くの駐在員が「疑念」を持つのです。

 

なぜでしょうか?

 

私が思い至ったのは、海外駐在員が処遇に不満を持つときは、「仕事が上手くいっていない」ことが多いってことでした。同時に、相談する相手がいないことの辛さも、思い出したのです。

 

私の記憶では、経営に問題を抱えている事業所の駐在員からは、より多くの処遇に関するクレームが、海外人事に寄せられる傾向がありました。

 

 

駐在員なら誰でも一度は経験することですが、「この苦労を本社に分かってもらいたい」と切実に感じる瞬間があります。処遇や給与に対するクレームは、「会社は、海外で苦労している自分を尊重してくれているのだろうか?」ということの、確認行為なのかもしれません。

 

 

 

【人の心がどう動くかを想定する】

 

海外人事制度が集約された海外給与体系は、確かに、予算上の制限・税法上の問題・公平性の担保・相場観を精査して設計することは重要です。

 

技術的な方法は、書籍を読んだり専門家に相談すれば、簡単に知ることが出来ます。しかし、人事制度設計の本当の難しさは、「実験ができない」というところにあるのです。

 

海外人事屋だった私は、精緻に組み立てた「理屈の立体パズル」を守る為に、理論武装することに拘っていました。制度を変更した後、どんな不具合が起こるか分からず不安だったので、文句言われても正当性を主張出来るように、理屈を最優先に考えていたのです。

 

 

海外給与体系を、長期に渡って「健全に維持し」「動機付け効果を最大限にする」為に必要だったのは、海外で苦労している仲間の心情を分かろうとする「思いやり」と、ほんの少しの「誠実さ」だったのかもしれないなと、今になって思っています。

 

良い家電製品は、専門技術的なことを説明されても理解できませんが、使ってみると「配慮」の行き届いた設計者の思いを「感じる」ことが出来ます。そういう製品は、ずっと大事に使ってもらえますよね。

 

海外駐在員の給与制度にも、同じことが言えるのかも知れませんね。

 

 

次回は、帯同子女の学校探しについて、考えてみたいと思います。

 

 

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<筆者紹介>

海外生活株式会社

海外危機管理コンサルタント 山本 優

10年の海外勤務、帰国後の海外人事の経験をもとに、海外勤務の諸問題をクライアントの皆様と一緒になって考える、海外人事支援コンサルタント。

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【連載】失敗から学ぶ海外人事(第7話 海外駐在員 帰国したらただの人)

2019.04.22

 

 

 

 

第 7話 海外駐在員 帰国したらただの人

海外での勤務は、本当に苦労が多いですが、日本での仕事と比べて裁量の範囲が広く「やりがい」を感じること も多々あります。日本の本社からすると、海外駐在員は事業所を動かすキーマンですから、何かと脚光を浴びることが多いのです。

 

 

日本では、「実務実行者」だった人が、海外事業所では「経営者」であったり、「管理者」としてのスキルが要求されます。 でも、現地には経営の「いろは」を懇切丁寧に指導してくれる人は、殆どいません。

 

海外事業所に派遣された平社員の私は、突然、社内のスターとなって発信する情報や決定したことが、いろいろ取沙汰されるようになったのです。本社では、私しか頼る者がいませんから、ヘソを曲げないように凄く気を使ってくれていたのです。

 

 

若気の至りで、いい気になってしまった私は、帰任してからやっと夢から冷めたのでした。同時に、日本での仕事に生きがいを感じなくなってしまいました。多くの企業で、同様のことが起こっている と思います。

 

今回は、帰任後の元海外駐在員の活用を考えてみたいと思います。

 

 

メキシコ工場での任期が終了したのは、 2001 年 9 月のことでした。私は、家族と共に飛行機に乗って、帰国の途についていました。海外での仕事や生活について、ほとんど勉強もせず赴任して、マネージメントの難しさなど全く意識せず、 5 年間バタバタと目の前にある問題に対応するだけの駐在生活でした。

 

「あ~ぁ、やっと終わったな・・日本に帰ろう。メキシコ工場での経験を、日本での仕事に活かして、がんばろう!」

 

それが、大きな幻想だったことに気が付くのに、そんなに長い時間は必要ありませんでした。

 

【駐在中に得たものは?】

 

私の海外駐在中の仕事のやり方は、兎に角、即断即決で行動力を発揮するという原則に基づいていました。

 

 

大勢の外国人を自分の管理下に置いて、まごまごしていたら、その時点で「甘く見られて」統制がとれなくなってしまいます。毎日の準備が重要で、間違った指示を出さないように細心の注意を払わなければなりません。

 

回答を保留したり、判断を間違ったりすると、数時間後には現場が混乱してしまうリスクが高まります。なぜなら、的確な指示が来ないと、現地スタッフは自分の裁量で仕事をしてしまうことが多いからです。

 

 

「あっ、それは本社に訊いてからじゃないと分からないから、ちょっと待ってね」

 

 

そんなこと言うと、「何も決められない立場の人」として、部下に対する統制力を失うのです。現地スタッフは、いつも「すぐに決めてくれる 人」を探しているのです。

 

極端な話のように聞こえるかもしれませんが、多くの日本人駐在員が現地で直面する困難は、「待ったなし」の状況に毎日のように追い込まれることなのです。

 

今にして思えば、多くの海外駐在員の皆さんが経験しているように、 1 日 24 時間、 1 週間 7 日、 1 年 365 日、ずっと仕事のことばかり気になっていて、心の休まる時がほとんどない生活でした。

 

 

国や地域によって、レベルは違っていますが、海外のオペレーションでは「事態即応能力」が、非常に重要です。海外駐在員が駐在中に習得するスキルは、語学や異文化理解といったアカデミックな領域があります。しかし、この「事態即応能力」が海外事業所の現場では、最も重要且つ有益なスキルなのです。

 

「事態即応能力」は、とても聞こえがいいですが、実は日本人がとても苦手な「リスクをとる」ということが要求される、肝試しのようなものです。

 

 

私は、日本の同僚達が「社内交渉スキル」を伸ばしている間、この「事態即応能力」という、日本の組織には馴染みにくいスキルを経験的に学んでいたのでした。

 

 

【すぐには何も決まらない組織】

 

私は、帰国後の配属先でも、海外勤務時の「流儀」で仕事をしようとしました。上司には
自分の意見をはっきり述べ、周囲には言いたいことを言い、決裁を急ぎ、即行動する・・・・。

 

でも、ある日、気が付いたのです。「俺、浮いちゃってるな・・・」

 

日本企業は、物事を決定するまでに、相当の時間をかけて熟考するのが一般的です。そして、担当者→課長→部長→役員といった具合に、案件が上程されていって、最終的には「会社ぐるみ」で納得しないと、何も起こらないのです。

 

 

動きが遅い一方で、時間をかけて慎重に議論することによって、さまざまな問題点が精査され、事前に対策が準備され、全社のレベルが統一され、妥当な結論が出てくるのです。ある意味では、それが日本企業の屋台骨を支える仕組みになっていると思います。

 

日本の同僚達は、会議資料や役員資料の作成、社内交渉の進め方、打合せ・会議の進行、社内の情報展開、といったスキルを叩きこまれ、社内人脈の中で仕事することを学んでいたのです。それは、政治といっても良いかもしれません。

 

 

そういう組織の中では、私が海外勤務中に習得した「仕場面はありませんでした。私の仕事の仕方は、日本では「着」で、「思慮が浅い」と受け取られていたのでした。

 

 

 

【ただの人は、とても退屈】

 

メキシコ工場で重要人物だった私は、組織の底辺にいる「ただの人」に戻っていたのです。「ただの人」としての仕事は、とても退屈でした。日本の本社には、海外で習得したスキルを活かす職場は、どこにもありませんでした。

 

 

それどころか、「扱いにくい生意気な奴」という位置づけになってしまうのです。これは、若年層の海外駐在員に起こる傾向があるようです。

 

 

私は、ある時期から自分の意見は言わずに、可能な限り大人しく仕事をするようになりました。その方が、周囲との摩擦が少なくて安全だからです。

 

 

 

【人材をムダにしていませんか?】

海外事業所でさまざまな経験をし、現地でのマネージメント経験のある「元海外駐在員」を帰任後に活用出来ている企業は非常に少ないと言われています。

 

ビジネス雑誌等では「グローバル人材育成」が、頻繁に取沙汰されています。グローバル人材育成の手始めに、「元海外駐在員」を十分に活用できていない理由を、深く洞察することは、とても有益かもしれませんね。

 

 

海外駐在員が赴任から帰任までの期間、どのくらいの経費が掛かっているか、試算してみることをお勧め致します。

 

国内勤務以上に支払う海外給与、グロスアップした会社負担の所得税、 社会保険料、引越費用、住居手当、配偶者手当、子女教育手当、赴任・帰任時支度金、語学研修、赴任前研修、渡航・帰国航空券、社有車経費、一時帰国費用、などなど、莫大な費用が掛かってますよね?

 

 

海外駐在員は、海外事業所の経営を担う一方で、「海外事業のマネージメントを経験的に習得した人」という、会社にとって貴重な人的財産と捉えることも重要です。そして、その経験は、会社の莫大な投資によって得られたものなのです。

 

 

とんがった態度をとったり、はっきりものを言ったりする彼らを活用するのは、とても骨が折れますよね。逆に、 周囲との摩擦を嫌がって、海外での経験を胸の内にしまいこんで、目立たない様に大人しくしている人がいるかもしれません。

 

でも、グローバル化が急速に進行していると言われている日本で、彼らの経験は、会社にとって頼もしい戦力になるかもしれないのです。

 

次回は、「海外勤務者の給与」について、考えてみたいと思います。

 

 

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<筆者紹介>

海外生活株式会社

海外危機管理コンサルタント 山本 優

10年の海外勤務、帰国後の海外人事の経験をもとに、海外勤務の諸問題をクライアントの皆様と一緒になって考える、海外人事支援コンサルタント。

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【連載】失敗から学ぶ海外人事(第 6 話 現地スタッフ 就労の動機を知る!)

2019.04.15

 

 

第 6 話 現地スタッフ 就労の動機を知る!

現地スタッフの定期的な契約更新の日。ほんとに、憂鬱ですよね。現地従業員の契約更新を、日本人駐在員が実施している会社は、結構多いと聞いています。

業績を正しく評価して、本人を納得させて、なるべく人件費を低く抑えたい・・・でも、なかなか納得してくれないし、時間かかるし、相手によっては険悪な雰囲気になりますよね。

 

そもそも、労務管理の勉強など、赴任前にして行く人は殆どいないのが実情です。契約更新は、単に業績を評価するだけではないのです。それによって、その人の年収が決定されます。労務管理の「いろは」を知らない人が、何も知らないまま思い込みだけで評価・査定すると、例外なく、とんでもないことになりますね。

 

私も、その「いろは」を知らないうちの 1 人だったと思います。案の定、大失敗をしてしまいました。どうぞ、じっくりとお読みください。日系企業の海外事業体の組織には、大きく二通りの形態があると言われています。一つは、日本人駐在員をラインに置くやり方。

 

もう一つは、日本人駐在員をオフラインに置いて、「コーディネーター」という「黒子」として活動させるやり方。どちらも一長一短があります。

 

私が勤務していたメキシコ工場では、駐在員はラインに入って、直接の権限と責任を持ったマネージャーとして運営にあたっていました。

 

つまり、矢面に立つ立場にいたということなのです。当然、部下の現地スタッフ達の契約更新は、私たち駐在員がやることになっていました。

 

【初めての契約更新】

「はぁ?契約更新?俺たちがやるんか?そんなの、やったことねぇぞ。」最初、聞いた時は全員がそう思いました。だって、今まで評価されたことはあっても、評価したことなど無かったんですから!
たとえ業績を正しく評価できたとしても、昇給の人事的なスキルなど、知識も経験もなかったのです。そもそも、自分達の給料でさえ、どのように決められているのか、よく知らな いレベルでしたからね。日本の会社の社員は、そういう人が多いのです。

 

目標管理的な手法があったとしても、それがそのまま給与に 100%反映されているなんて、だれも信じてはいないのが、私たち「普通のニッポンのサラリーマン」なのです。本音を言えば、上司がなんとなく部下達の働きぶりを観察していて、それらが「総合的」に判断されているという、暗黙の了解があるような気がしているのです。

大概の日本人駐在員は、そういう「にっぽんの会社!」のやり方しか知らずに、赴任地に赴くのです。

 

【契約更新は、バトルフィールド!】

初めての現地スタッフの業績評価。来年度のサラリーを決めて、合意しなければなりません。私は、意外とリラックスした気分でした。実際の昇給は、目標数値の達成だけではなく、そのプロセス(つまり、取組む態度)も加味するので、数値達成度に拘るつもりはまるでなかったのです。ところが、どっこい!そうは問屋が卸してはくれなかったんですわぁ。

 

部下 A:「私は、残業も嫌がらずに対応したし、日本のやり方を良く学んでスキルもアップしたはずだから、ここの点数評価が低すぎます。もっと、良い点数がつくはず!」

部下 B:「僕はデータ処理については良い働きをしたはず!もっと、高い点数だ!」

部下 C:「私はこの地域でのバイヤーとしては 30 年のベテランだ。なんだ、この低い点数は?もっと、キャリアとスキルを加味した評価ができないのか?」

つまり、私の付けた点数が低すぎると、皆さん、たいそうご立腹だったようです。

 

【何を根拠に評価したのか?】

私の付けた点数は、アメリカ現法の評価シートをそのまま流用した評価方法でした。人事制度に無知な私は、メキシコでも適用可能だと勝手に思い込んでいたのです。

 

歴史の長いアメリカ現法では、アメリカ人の経験豊かな人事マネージャーが人事制度を設計し、長期に渡って運用していました。評価シートは、賃金制度・等級制度等を元に設定されたもので、アメリカの従業員には一定の公平性が担保されたものでした。

 

しかし、メキシコ人スタッフにとっては、その評価シートは、「得体の知れない」ものだったのです。メキシコ工場には賃金制度はありましたが、地域の実情に合った給与テーブルや等級スペックは整備されていませんでした。

私と部下達の目の前に立ちはだかっていたのは、「賃金決定の基準が曖昧」という致命的な、人事制度上の欠陥でした。

 

【魔のサラリー更改】

そんなことはどこ吹く風?と、なんとか、彼らを力づくで説き伏せた後、いよいよ契約更新の為の昇給の話です。ほんとに、揉めますよね。予算は決まっていますから、絶対評価に基づく昇給ではなくて、人件費予算の配分ですからね。高い評価点を取ったからといって、期待通りの昇給が獲得できるとは限らないのです。

 

みんなあの手この手で、少しでも高い昇給を獲得しようと必死です。

「子供が来年から学校に通うんだ」「今年、結婚するんです。」「年老いた母が病気で・・・」「大家が家賃の値上げを言ってきた」「通勤の為の車の修理で、借金が出来てしまった」・・・。

ほんとに、テレビのコントみたいな対話だったと思いますね。

それでも、力づくで了承させて、初回の契約更新は終了したのです。初年度の工場立上を一緒になってやってくれた人達だから、大奮発して、平均昇給率 4%の大盤振る舞い!

と、私は、清々しい気分に浸っていたのです。

でも、人事制度の知識が欠如していた私は、「インフレ率」という重要な要素をまったく知らなかったのです。そのことの不具合を、後になって思い知らされたのです。

 

【生存競争の最前線だった契約更新】

私が赴任した当時(1997 頃)、メキシコでは急速なインフレが大きな社会問題となっていました。地域によって差はありましたが、メキシコ政府の公式発表では、年率 17%~20%のインフレだったと記憶しています。別の統計では、 22%の上昇が報じられていました。

 

今はどういう状況かは知りませんが、私がいた当時は家賃や食料品等が、目に見える状態で値上がりしていました。先週と同じ値段では、物が買えないということ が実際にあったのです。

 

つまり、私が行った契約更新は、部下達にとっては実質賃金の大幅な目減りという、とても残念な結果だったのです。後で知ったことですが、同じ工業団地で操業する他社の中には、 インフレ率の補正分を昇給率に織り込んで処遇した企業もあったそうです。

 

私が行なった評価結果は、現地の労働市場では、お話にならないくらい競争力が無かったのでした。

 

部下の皆さんが激怒するのも、無理もありません。大盤振る舞いのように晴れやかに微笑みながら、「君には、 4%あげるよ!」なんて言っていたのですから、おめでたい話ですよね。

 

【相次ぐ退職、戦力の低下】

契約更新から 2 か月程してから、主力のマネージャーやスーパーバイザーの退職が散見されるようになりました。彼らは、契約更新の直後から転職先を探していたのです。

 

補充はしますが、大幅な戦力ダウンに苛まれ、事業所としての能力はなかなか向上しませんでした。
退職の理由は、「現在の生活水準を維持するためには、より条件の良い企業に転職するしかない。」ということ が多かったと記憶しています。

私がやったことは、「業績評価の明確な標準を提示することなく、人事考課を行い」、そして「経済情勢や近隣の相場を調査することなく、給料を決定した」ということでした。

 

今では、必死で世の中を生き抜こうとしている人達に対して、とるべき態度ではなかったと反省しています。工場操業開始から4年経過した頃、工場長に海外工場運営のプロフェッショナルが就任しました。彼が一番最初に着手したのは、人事制度の改善でした。彼が行なった改善後には、マネージャーやスーパーバイザーの離職率は大幅に改善されたと聞いています。

経営者として、人事制度の重要性を深く理解していた人でした。

 

【就労の動機が違う!】

先進国と途上国では、一体何が一番違っているのでしょうか?

それは、経済発展のレベルです。そのことが直接的に、所得水準、医療水準、犯罪発生率、インフラ整備状況などの、生きるということの品質に大きく影響しているのです。

欧米や日本のような先進国では、企業で働く動機として、キャリア形成や専門性のアップ、将来性などと言った美辞麗句が、ある程度通用するようですね。チャンスは多くの人達に対して、ワイドオープンであるべきだと思われています。

しかし、途上国では、所得格差が驚くほど大きいのです。そもそも、裕福な家の人達しか高等教育を受けることができず、 貧困層の人々は優良企業に職を見つけることに大きな困難が伴います。運良く就職できたとしても、自分の生活の補償は、自分自身で獲得していかなければならないのです。

 

また、生活環境の厳しい国々では、先進国のようには社会保障制度が整備されていない場合が多く、少しでも 多くキャッシュを稼ぐことが最重要課題なのです。オーバーな言い方をすれば、職場は生存を賭けた闘いの場なのです。

日本人とは就労の動機が違っている人達を、問題なきように統制・管理するには、日本とは違う労務管理の知恵とノウハウが必要です。近年、海外事業所の労務管理をコンサルティングするサービスが、多くの企業に活用されているそうです。

 

あなたの会社の海外事業所では、地域の実情の合った人事制度が整備されているでしょうか?また、業績評価の明確な標準があって、現地従業員が納得し易い評価が出来ているでしょうか?

労務問題は、日本人駐在員には見えない場所で増殖し、ある日突然、爆音と共に顕在化するのです。

 

今、海外事業所の事務所で仕事中のあなた、窓の外を見てください。「待遇改善」の横断幕やプラカードを掲げた多くの従業員が、抗議行動しているのが視えませんか?あなたのオフィスに、血相変えて押し寄せて来るかも知れません。

次回は、「帰任後の人材活用」について考えてみたいと思います。

 

 

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<筆者紹介>

海外生活株式会社

海外危機管理コンサルタント 山本 優

10年の海外勤務、帰国後の海外人事の経験をもとに、海外勤務の諸問題をクライアントの皆様と一緒になって考える、海外人事支援コンサルタント。

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