【連載】失敗から学ぶ海外人事(第 15 話 見えない病、働けなくなった駐在員)
2019.06.24
第 15 話 見えない病、働けなくなった駐在員
ある企業で海外人事を担当している A さんから聞いた話しです。ある日、 A さんのデスクに上司がやってきて・・・。
上司:「あのな・・・北米のMさんだけどな、調子悪いみたいなんだ。」
A: 「えっ?なんでですかぁ?元気そうだったけどな。」
上司:「例のあれだよ。それを念頭に置いて気をつけておいてくれな。」
A:「あ~、例のあれですかぁ・・了解です。
上司:「まぁ、暫く様子みような。いずれ、回復すると思うけど。」
A さんは、 この会話の一ヶ月前にMさんから電話があって、一時間くらい愚痴を聴いたことを思い出しました。
同僚の駐在員の態度が悪いなど、Mさんらしくない愚痴を並べ立て、 最後には、「A くん、話を聴いてくれてありがとうな」と言ったそうです。
更に、 北米の拠点長が、「最近、Mに仕事のメールしても返事こないし、電話しても出ないし、俺、ちょっと行って様子を見てくるわ。」 と電話してきたことも思い出しました。
Mさんは、体調不良を理由に出社しない日が増え、とうとう心配した北米担当の拠点長が様子を確認に行かなければならない状況になってしまいました。
結果、業務が全く出来ない程でもない為、しばらくは負荷をかけない様にして注視することになりました。
現地での対応が早かったので、Mさんは、なんとか任期を全うすることが出来たそうです。しかし、本人にとっては辛い駐在経験だったと思います。
海外駐在員が、なぜ赴任地の仕事で強いストレスを感じるのか?
私の経験で恐縮ですが・・・・・。
「慣れない異国の地」で、日本側の様々な要求事項を、言語・文化・習慣・就労意識・ビジネスの思考形態の全く異なる現地スタッフに説明して、納得させて、日本と同様の成果・効果・結果を出すのは、並大抵なことではありません。
生来、話好きな私自身、海外赴任してから半年間ぐらいは、無口になりました。現地の事情が分からない日本側と、なかなか言うこと聞いてくれない現地との狭間で、板ばさみになってしまうのです。この、「板ばさみストレス」が、私にとって、もっとも辛く感じることでした。
日本で習得した仕事の仕方が通用しないと分かった時、海外のビジネス 環境での自分自身の無力さに直面するのです。
更に、「誰も助けてくれない」職場環境が、ストレスに拍車を掛けていきます。同僚の駐在員と言っても、他部門から出てきた人達です。仕事に関する考え方も違えば、スキルも違います。
同僚の駐在員が、常に「味方」というわけではありません。本社の部門間の利害関係が、駐在員にも色濃く反映されることは、しばしばある事です。駐在員同士がいがみ合うことも、日常茶飯事です。
ビジネスはファンタジーではありません。少々冷たい言い方ですが、「実業」の世界は厳しく冷酷なものです。機能を果たせなくなった駐在員は、戦線離脱させるしかありません。
海外駐在員は海外事業運営の「キーマン」ですから、駐在員の機能不全は事業全体の機能不全に繋がる可能性が高いのです。
海外勤務に耐性がある人材って、どんな人?
そもそも、海外勤務に耐性がある人材って、どんな人なのでしょうか?それは、どうやったら事前に分かることが出来るのでしょうか?海外人事としては、とても興味のあるところですね。
私自身は、明確な答えは持っていません。ただ、海外赴任や海外人事の経験を通して、なんとなく分かったことがあります。
それは、「配慮の無い孤独な環境では、人は能力を発揮できない。」ということです。逃げ道の無い孤独な環境に、長期間耐えることが出来る人は、会社には殆どいないという前提に立つことが、海外人事にとって、会社にとって、とても大事なことかもしれませんね。
次回は、駐在員にとって切実な「奥さんのメンタルヘルス」について、考えてみます