LOADING...

株式会社マイグローバル・ジャパン

MENU

海外で生活する前に知っておきたかったコト!Overseas Tips

【連載】失敗から学ぶ海外人事(第 6 話 現地スタッフ 就労の動機を知る!)

2019.04.15

 

 

第 6 話 現地スタッフ 就労の動機を知る!

現地スタッフの定期的な契約更新の日。ほんとに、憂鬱ですよね。現地従業員の契約更新を、日本人駐在員が実施している会社は、結構多いと聞いています。

業績を正しく評価して、本人を納得させて、なるべく人件費を低く抑えたい・・・でも、なかなか納得してくれないし、時間かかるし、相手によっては険悪な雰囲気になりますよね。

 

そもそも、労務管理の勉強など、赴任前にして行く人は殆どいないのが実情です。契約更新は、単に業績を評価するだけではないのです。それによって、その人の年収が決定されます。労務管理の「いろは」を知らない人が、何も知らないまま思い込みだけで評価・査定すると、例外なく、とんでもないことになりますね。

 

私も、その「いろは」を知らないうちの 1 人だったと思います。案の定、大失敗をしてしまいました。どうぞ、じっくりとお読みください。日系企業の海外事業体の組織には、大きく二通りの形態があると言われています。一つは、日本人駐在員をラインに置くやり方。

 

もう一つは、日本人駐在員をオフラインに置いて、「コーディネーター」という「黒子」として活動させるやり方。どちらも一長一短があります。

 

私が勤務していたメキシコ工場では、駐在員はラインに入って、直接の権限と責任を持ったマネージャーとして運営にあたっていました。

 

つまり、矢面に立つ立場にいたということなのです。当然、部下の現地スタッフ達の契約更新は、私たち駐在員がやることになっていました。

 

【初めての契約更新】

「はぁ?契約更新?俺たちがやるんか?そんなの、やったことねぇぞ。」最初、聞いた時は全員がそう思いました。だって、今まで評価されたことはあっても、評価したことなど無かったんですから!
たとえ業績を正しく評価できたとしても、昇給の人事的なスキルなど、知識も経験もなかったのです。そもそも、自分達の給料でさえ、どのように決められているのか、よく知らな いレベルでしたからね。日本の会社の社員は、そういう人が多いのです。

 

目標管理的な手法があったとしても、それがそのまま給与に 100%反映されているなんて、だれも信じてはいないのが、私たち「普通のニッポンのサラリーマン」なのです。本音を言えば、上司がなんとなく部下達の働きぶりを観察していて、それらが「総合的」に判断されているという、暗黙の了解があるような気がしているのです。

大概の日本人駐在員は、そういう「にっぽんの会社!」のやり方しか知らずに、赴任地に赴くのです。

 

【契約更新は、バトルフィールド!】

初めての現地スタッフの業績評価。来年度のサラリーを決めて、合意しなければなりません。私は、意外とリラックスした気分でした。実際の昇給は、目標数値の達成だけではなく、そのプロセス(つまり、取組む態度)も加味するので、数値達成度に拘るつもりはまるでなかったのです。ところが、どっこい!そうは問屋が卸してはくれなかったんですわぁ。

 

部下 A:「私は、残業も嫌がらずに対応したし、日本のやり方を良く学んでスキルもアップしたはずだから、ここの点数評価が低すぎます。もっと、良い点数がつくはず!」

部下 B:「僕はデータ処理については良い働きをしたはず!もっと、高い点数だ!」

部下 C:「私はこの地域でのバイヤーとしては 30 年のベテランだ。なんだ、この低い点数は?もっと、キャリアとスキルを加味した評価ができないのか?」

つまり、私の付けた点数が低すぎると、皆さん、たいそうご立腹だったようです。

 

【何を根拠に評価したのか?】

私の付けた点数は、アメリカ現法の評価シートをそのまま流用した評価方法でした。人事制度に無知な私は、メキシコでも適用可能だと勝手に思い込んでいたのです。

 

歴史の長いアメリカ現法では、アメリカ人の経験豊かな人事マネージャーが人事制度を設計し、長期に渡って運用していました。評価シートは、賃金制度・等級制度等を元に設定されたもので、アメリカの従業員には一定の公平性が担保されたものでした。

 

しかし、メキシコ人スタッフにとっては、その評価シートは、「得体の知れない」ものだったのです。メキシコ工場には賃金制度はありましたが、地域の実情に合った給与テーブルや等級スペックは整備されていませんでした。

私と部下達の目の前に立ちはだかっていたのは、「賃金決定の基準が曖昧」という致命的な、人事制度上の欠陥でした。

 

【魔のサラリー更改】

そんなことはどこ吹く風?と、なんとか、彼らを力づくで説き伏せた後、いよいよ契約更新の為の昇給の話です。ほんとに、揉めますよね。予算は決まっていますから、絶対評価に基づく昇給ではなくて、人件費予算の配分ですからね。高い評価点を取ったからといって、期待通りの昇給が獲得できるとは限らないのです。

 

みんなあの手この手で、少しでも高い昇給を獲得しようと必死です。

「子供が来年から学校に通うんだ」「今年、結婚するんです。」「年老いた母が病気で・・・」「大家が家賃の値上げを言ってきた」「通勤の為の車の修理で、借金が出来てしまった」・・・。

ほんとに、テレビのコントみたいな対話だったと思いますね。

それでも、力づくで了承させて、初回の契約更新は終了したのです。初年度の工場立上を一緒になってやってくれた人達だから、大奮発して、平均昇給率 4%の大盤振る舞い!

と、私は、清々しい気分に浸っていたのです。

でも、人事制度の知識が欠如していた私は、「インフレ率」という重要な要素をまったく知らなかったのです。そのことの不具合を、後になって思い知らされたのです。

 

【生存競争の最前線だった契約更新】

私が赴任した当時(1997 頃)、メキシコでは急速なインフレが大きな社会問題となっていました。地域によって差はありましたが、メキシコ政府の公式発表では、年率 17%~20%のインフレだったと記憶しています。別の統計では、 22%の上昇が報じられていました。

 

今はどういう状況かは知りませんが、私がいた当時は家賃や食料品等が、目に見える状態で値上がりしていました。先週と同じ値段では、物が買えないということ が実際にあったのです。

 

つまり、私が行った契約更新は、部下達にとっては実質賃金の大幅な目減りという、とても残念な結果だったのです。後で知ったことですが、同じ工業団地で操業する他社の中には、 インフレ率の補正分を昇給率に織り込んで処遇した企業もあったそうです。

 

私が行なった評価結果は、現地の労働市場では、お話にならないくらい競争力が無かったのでした。

 

部下の皆さんが激怒するのも、無理もありません。大盤振る舞いのように晴れやかに微笑みながら、「君には、 4%あげるよ!」なんて言っていたのですから、おめでたい話ですよね。

 

【相次ぐ退職、戦力の低下】

契約更新から 2 か月程してから、主力のマネージャーやスーパーバイザーの退職が散見されるようになりました。彼らは、契約更新の直後から転職先を探していたのです。

 

補充はしますが、大幅な戦力ダウンに苛まれ、事業所としての能力はなかなか向上しませんでした。
退職の理由は、「現在の生活水準を維持するためには、より条件の良い企業に転職するしかない。」ということ が多かったと記憶しています。

私がやったことは、「業績評価の明確な標準を提示することなく、人事考課を行い」、そして「経済情勢や近隣の相場を調査することなく、給料を決定した」ということでした。

 

今では、必死で世の中を生き抜こうとしている人達に対して、とるべき態度ではなかったと反省しています。工場操業開始から4年経過した頃、工場長に海外工場運営のプロフェッショナルが就任しました。彼が一番最初に着手したのは、人事制度の改善でした。彼が行なった改善後には、マネージャーやスーパーバイザーの離職率は大幅に改善されたと聞いています。

経営者として、人事制度の重要性を深く理解していた人でした。

 

【就労の動機が違う!】

先進国と途上国では、一体何が一番違っているのでしょうか?

それは、経済発展のレベルです。そのことが直接的に、所得水準、医療水準、犯罪発生率、インフラ整備状況などの、生きるということの品質に大きく影響しているのです。

欧米や日本のような先進国では、企業で働く動機として、キャリア形成や専門性のアップ、将来性などと言った美辞麗句が、ある程度通用するようですね。チャンスは多くの人達に対して、ワイドオープンであるべきだと思われています。

しかし、途上国では、所得格差が驚くほど大きいのです。そもそも、裕福な家の人達しか高等教育を受けることができず、 貧困層の人々は優良企業に職を見つけることに大きな困難が伴います。運良く就職できたとしても、自分の生活の補償は、自分自身で獲得していかなければならないのです。

 

また、生活環境の厳しい国々では、先進国のようには社会保障制度が整備されていない場合が多く、少しでも 多くキャッシュを稼ぐことが最重要課題なのです。オーバーな言い方をすれば、職場は生存を賭けた闘いの場なのです。

日本人とは就労の動機が違っている人達を、問題なきように統制・管理するには、日本とは違う労務管理の知恵とノウハウが必要です。近年、海外事業所の労務管理をコンサルティングするサービスが、多くの企業に活用されているそうです。

 

あなたの会社の海外事業所では、地域の実情の合った人事制度が整備されているでしょうか?また、業績評価の明確な標準があって、現地従業員が納得し易い評価が出来ているでしょうか?

労務問題は、日本人駐在員には見えない場所で増殖し、ある日突然、爆音と共に顕在化するのです。

 

今、海外事業所の事務所で仕事中のあなた、窓の外を見てください。「待遇改善」の横断幕やプラカードを掲げた多くの従業員が、抗議行動しているのが視えませんか?あなたのオフィスに、血相変えて押し寄せて来るかも知れません。

次回は、「帰任後の人材活用」について考えてみたいと思います。

 

 

お問い合わせContact

海外引越し・国内引越しのことならなんでも、
お気軽にご相談ください。